僕らは運命の意味を探していた。
「で? もう行くのか?」

「もちろんよ。鍵は持ってるから、いつでもいいわよ。」

「何で持ってんだよ……。」

 俺はそう呆れた顔で言うが、理由は分かっていた。俺は、なんとなく言わないと気が済まなかった。

「そりゃ、ママと真道のお母さんが、凄い仲いいからね。ある程度なら融通してくれるわ。」

 頼む方もどうかと思うけど、聞き入れる方も同罪だ。思春期男子一人暮らしの家に、勝手に上がらせる親がどこにいる。

 俺は二人に対して懐疑的な立場にいた。

「でも、今回ばかりはそう上手くはいかなかったわ。真道のお母さんも、やっぱり抵抗あったみたい。いくら仲の良い友達だからって、息子に内緒で家に上げるのは、どうかなって。なかなか許可を貰えなかったけど、理由を説明したら渋々、ね。」

 俺は少し立ち止まって考えた。少し無神経すぎやしないかと。

 意識不明で倒れた真道の家に上がって、アニメの高校生探偵の真似事を、意気揚々と遂行しようとしている。

 真道たちは今も何かと戦っている最中なのに。

 俺らはこんな遊びをしていていいのだろうか。

「私も考えたのよ。いくら親友で、仲良くても、超えちゃいけない一線ってあると思うの。今回のこれだって、もしかしたら私たちのテリトリー外、踏み込んではいけない領域なのかもしれないわ。」

 真道のお母さんも驚いたと思う。

 いきなり来海の母伝で、「息子の家の鍵を貸してくれ」だなんて。

 理由にも小学生並みの好奇心が露呈しているのだろう、俺はそう思った。

 あんな事があったばかりに、真道のお母さんの心情を考えると、もっと時間の経過を待つ方が良い気がした。

「でも、じっとしていられなかったのよ……。」

「気持ちは分からんでもないけど、傍から見たら、遊んでるようにしか見られないからな。」

 少々辛辣な言葉を掛けてしまったと罪悪感はあった。でもこれが俺の本心だった。

「分かってるわよ……。馬鹿げた高校生に見られてる事くらい・・・・・・。」

 俺らの捜索活動には何のリスクも背負っていない。

 時間制限も命の危機も、何一つ僕らに課せられているものはない。その確信が、俺にはあった。

 いくらあいつらのためとは言っても、世間体はそう甘くはない。

 どんな大義名分があっても、俺らのする行為は看過できない範囲にあると思う。

 しかし、俺らがずっと爪を噛んで待っていられるほど、忍耐強い訳でもなかった。だから来海の行動に痛いほど共感できた。

「俺も流石に、二の足を踏むよ。いくらあいつらのためとはいえ、何があるか分からないし。」

 俺は来海に、事の重大性を感じて欲しかった。かなりリスキーな事に片足を突っ込むようになると、分かって欲しかった。

 そもそも俺には、これがあいつらのためになるのか甚だ疑問だった。

 決して俺らが直接何かでき訳も無いのに、あいつらのためという大義名分を掲げて、自己満足に浸っているようにすら見えたから。

 でも、何かしら動いていないとあいつらを見捨てているような気がしてならなかった。

 毎日家と病院を往復するだけでは、あいつらの親友として、失格の烙印を押されるという危惧が、僕の心にあった。

 だから発案者の来海にここではっきりさせてもらいたい。何を目的としてやっているかを。

「来海はどこを目指してんだよ。」

 俺は真剣な眼差しで来海を見る。どんな返答なのか、心臓を高鳴らせながら聞いていた。

「……犯人を見つけて、一言言ってやりたいのよ。」

 来海からは、犯人を捜す、という部分までしか聞かされていなかった。

 だから少し驚きはしたが、来海の根底にある感情を聞くと、止めたい気持ちはどこかに消えてしまっていた。

「一言言ってやらないと気が済まないの。私たちの大切な親友たちの命を脅かした事に対して。」

「来海、お前……。」

 想像以上に、何か深い感情が来海の中で蠢いていたらしい。

 俺の視覚からでは到底達しえないような、かなり暗い部分に存在する感情が、来海の中にあった。

「私は世間体なんか気にしないわ。法に触れない、全部の手段を使って真実を明るみにするの。」

 なにか、身の危険を感じるほどの、危ない匂いがしてきた気がした。

「ああ、別に変な事はしないから安心して。ただの言葉のあやだから。」

 来海はそう言ったが、俺にはそう思えなかった。

 この先、俺らは犯罪者との戦いが始まる。その過程で確実と言っていい程、危険が存在しているだろう。

 安心という言葉が、俺らの辞書から消えて無くなる。そんな場合すら考えられた。一歩中に入ったら、もう戻れなくなるだろう。

「まあ、行くか。こんな所で時間食っても勿体ないしな。」

 俺は決めた。来海の勢いに身を任せて、先に進むことを。

「あら、やる気になったのね?」

「まあな。犯人の顔も拝んでみてえし。早く警察に取っ捕まって欲しいからな。」

 いつになるか分からないし、俺らが出来る範囲ならやれることも限定されてくるだろう。

 でも、俺らじゃないと不可能な事だってあるはずだ。現に、来海の行動に関しては、来海のコネが無いと実現不可能だった。

「ありがとね。私の無茶に付き合ってくれて。」

「いいって。慣れっこだし。」

 冗談色を出して来海に返したが、少しの愛想笑いで誤魔化されてしまった。

 ツッコミ待ちしていた自分が恥ずかしかった。

 日は既に昇っており、青空と雲の部分は半々と言った所だろうか。

 最近にしては晴れの割合が多くなっている気がした。何かいい事でもあったらいいが、そんな無い物ねだりをしても仕方がなかった。

 二人横並びで歩く俺らは、真道の家を目指して歩を進めていた。

 道なりに植わる、緑の葉を付けた木々を横目に、なんてことない会話を続けながら、少しずつ真道の家に近づいてく。

 
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