内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
「お待ちください」という秘書の声と同時に、荒々しくドアが開いた。

「ちょっとよろしいでしょうか」

 先頭を切って入ってきたのは、研究開発部所属の主任である男性社員。その後ろから困惑顔の彼の上司と、秘書が続く。

「なんでしょう」

「どうしてですか! 打ち切りとはどういうことなんです?」

 血相を変えて不満をぶつける主任を「落ち着いてください」となだめる。

「落ち着いてなんかいられませんよ。この研究に私の全てをかけているんです!」

 やれやれ。それはあなただけではないでしょう?
 ここ『株式会社シルKU』は、石鹸でそれなりに名を馳せている大手消費財メーカーだが、資金は湯水のように湧くわけじゃない。それぞれが限られた予算の中で、ここの研究者全員が同じ心情で取り組んでいる。

 といったところで、この男は納得はしないだろうが。

「問題点ははっきりしていますから、その点を詰め直してみてはいかがですか」
 主任は怪訝そうに眉をひそめる。
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