内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
 柔らかそうなカシミアのコートを着て、肘にかけているのはきっと流行のブランドバッグなんだろう。

 悠が買ってくれたみたいな高級ブランドがよく似合っている。
 私がワンピースを試着したときのような、着せられている感なんて、まったくないな。

 さすがお嬢様だ。

「千絵さん、知り合いっすか? スゲー美人てしたね」

 彼女を振り返りながら、ヒサ君がそう聞いてきた。

「ちょっとね。美人だけじゃなくて、いいところのお嬢様なのよ。ヒサ君には絶望的に手が届かない高嶺の花」

「なんすかそれ、ひどいなぁ」

「ふふ。鼻の下伸ばすからよ」

 悠は彼女の縁談は断ると言っていたけれど。
 会いに来たとなると、話は進んでいるのかもしれない。

「そういや、千絵さんも珍しくいい服着てますね」

「え、ヒサ君わかるの? 目が肥えてるね」
 今日は悠が買ってくれたうちの、普段着の方を着てきたのだ。

「そりゃわかりますって、尻にロゴマークついてるし」

「キャー見ないでよ、エッチ」

 よかった。この服を着てきて。

 見栄をはるわけじゃないけれど、悠のお見合い相手を前に、恥ずかしい思いはしたくないし。

 さあ、なにを言われるのかな。


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