内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
 部屋に入ったお父さまにコートを預かりますと声をかけようとして手をとめた。エアコンで温まるまで、申し訳ないほど寒いから。

 案の定、お父さまもコートは着たまま腰を下ろす。

 急いで少しだけお湯を沸かし「どうぞ」とお茶とミカンを出した。

「急に申し訳なかったね」

「いいえ、大丈夫です」

 狭い部屋だしテーブルは小さいから、向かい合う距離が近い。否が応でもお父さまの顔がよく見える。

 表情は優しそうだけれど、時に強く光る悠の目もととよく似ているな。

 血は争えないね。
 悠が年齢を重ねたら、こんな感じの素敵なおじさまになるんだろう。

 お父さまの方が厳しそうだし、怖そうだけれど……。

「君はもしかして、施設の?」

「はい」

 施設で過ごしたのは三カ月だけです、と言ったところで、なにか言い訳のような気がして、口にしなかった。

「私は悠の存在を知らなくてね。迎えに行くのが遅くなってしまった」

 お茶をひと口飲んだお父さまは、開口一番そう言った。

「悠の母親の行方もわからなくてね。彼女はある日突然、私の前から姿を消したんだ。捜したが見つからなかった。彼女が亡くなったと風の便りに聞いて、悠の存在を知ったんだよ」

「そうでしたか」

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