AM:3:00


「逸鷹(ハヤタカ)くん、きみはそこのところをどう思う」

人で溢れた昼時の食堂にて。柊木ナルは頬を膨らませて僕に詰め寄っていた。そういうところはわざとらしい。けれど世の中のあざとい、と呼ばれるものは種類が違うようだ。その証拠に、僕は柊木に「かわいい」という感情を1ミリも抱いたことがない。


「どう思うって、何が」
「だから、昨日の飲み会について」
「昨日の飲み会がどうしたんだよ」
「会が始まった時には友達だった男女が、突然2人きりで消えていくのは如何なものか」
「よくあることだろ、気にすんな」
「気になる、すごーく、気になります」
「おまえが気になったところで何も変わらないだろ」
「変わる変わらないじゃなくて、世界がどうしてこういう風に回っているのか、そういうものが気になるんです」
「だから、気になったところで、世界は変わらないし、男女ってそういうもんだよ」
「じゃあ、昨日知らぬ間に消えて行った2人は晴れてカップルになったんですか?」
「なることもあるし、ならないこともあるんじゃない」
「逸鷹くん、きみは大人ですね」


拉致があかないと判断した時の癖だ。柊木はこうやって時々、まるで僕とわたしでは住む世界が違いますね、とでも言うように、やんわりと落胆するのだった。


「ていうか、珍しいな、柊木が飲み会に参加するなんてさ」
「たまには顔を出さないと」
「ふうん」
「興味ないのに聞いたんですか?」
「興味ないけど聞くこともあるだろ」


僕らが所属しているゼミは、教授の意向もあって縦社会の繋がりがかなり強い。つまるところ、1年から4年までのゼミ生が集まる親睦会という名の飲み会が、月に1度は開催されているのだ。僕も柊木も積極的に参加する方ではないけれど、建前もあり、3回に一度は顔を出すようにしている。柊木に至っては5回に一度かもしれないが。(つまり柊木がこの会に参加するのは年に2回の貴重な日なのだ)


「それより、人多いからどっか行こう、お前目立つから」
「いきます、今日は何を食べますか」
「オムライス」
「春の風ですね」
「なんかダサいから店名は言わなくていい」
「そういうものですか?」
「そういうもんだよ」


2限終わり、せっかく学食の席を取ったというのに、変わり者の柊木が横にいるだけでいつもの100倍は人目につく。僕は注目されることがこの世で1番嫌いなのだ。
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