やわく、制服で隠して。
「先生。この計画を立てたのは私です。まふゆと特別な日が過ごしたくて、両親が私の野外学習に合わせて旅行の計画を立ててたから、ちょうどいいって思ったんです。」

「うん。あなた達はただ、二人だけのやり方で楽しみたかった。それだけなのね?」

「はい。私も深春の計画を聞いた時、このチャンスを逃したら後悔するって思いました。」

「そう。ごめんね、先生として言わせてね。周りのことは考えなかった?」

「はい…。」

二人で同時に返事をする。
私も深春もしっかりと先生の目を見ていた。

朝の、体調が悪いですって電話一本で全てがうまくいったと思っていた。
バレっこないって信じきっていた。

こんなに先生を困らせることになるなんて思っていなかったんだ。

「自分達の言動に対して、必ず正しい判断が出来るわけじゃない。先生も、大人になってからだって沢山間違えてきた。だから今回のことをしっかり反省して、これからに活かしましょうね。」

「はい。」

先生は、深春のお父さんみたいなことを言うなと思った。
子ども達が間違ったのならそれを教えてあげるのが人生の先輩の役目だと、先生もそう言っているような気がした。

「先生も反省しなきゃいけないことがある。これからは逃げないで、もっと生徒に寄り添える教師になるわ。あなた達が教えてくれたの。」

「でも先生を悲しませたのは私達だから。本当にすみませんでした。」

私と深春はもう一度先生に頭を下げた。
先生は私達の前に置かれた作文用紙をスッと自分のほうに寄せて、解散、と言った。

深春が不思議そうに言った。

「反省文は?」

先生は悪戯に成功した子どもみたいにニッと笑って言った。

「反省文なんて書かせる側の自己満足。誰に提出するの?経費削減しましょ。」

これは正しいのかどうか分からない。
でも先生の笑った顔を見ていたら、正しいような気がする。

圧倒的に私と深春のほうが悪かったけれど、これでおあいこだって、先生が私達を見逃してくれた気がした。

生徒指導室を出たら、昼休みはあと十分くらいしか残っていなかった。
お昼ご飯を食べないまま職員室に行ってしまったから、お腹が空いていた。

でも昼休みはもうすぐ終わってしまうし、売店ももう開いていない。

「お腹空いたね。」

お腹をさすりながら言ったら、深春はそれには答えないで、すぐ傍のトイレに入っていった。
何も言わない深春の後を追った。

一つの個室に入っていく深春が、パッと振り返って、私の腕を思い切り引いた。
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