やわく、制服で隠して。
目が覚めたら十九時になろうとしていて、冬に比べたらまだ全然明るいけれど、陽が落ち始めているのがカーテン越しに分かった。

ママとの話が終わって、自分の部屋でベッドに横になっていたら、いつの間にか眠っていたみたいだ。

思ったよりも疲れていたのかもしれない。
多分、メンタルのほうが。

まだ完全に眠気から覚めていない目を擦って、スマホを手に取った。
深春からメッセージが届いている。

“今から行く”

送られてきているのは三十分くらい前。
目が覚めた辺りから、部屋の窓にコツ、コツと何かが当たる音がしていた。
もしかして、と思いながらカーテンを開けた。

コツ、コツ、コツ。

私の部屋の窓にぶつかる球体。
二枚窓の、球体がぶつかってきていない方の窓を開けて、見下ろした。

「深春!」

「もー!遅いよ!」

「何投げてんの!危ないじゃん!」

「ごめん。ね、下りて来てよ。」

私は窓を閉めて、部屋を出た。
階段を下りる前に、ママの寝室の前で声をかけようかと思ったけれど、もう必要ない気がしてやめた。

玄関を出たら、深春も回ってきていた。

「まふゆ、気付くの遅いよ。」

「ごめん、寝ちゃってたよ。なんか疲れちゃって。」

「うん。分かるよ。」

玄関前の、内と外を隔てる小さい階段に二人で座った。
石造りの階段はまだ冷えていなくて熱かった。

「それ、何?」

「これ?ピンポン玉。去年の夏祭りにね、クラスの何人かと行ったんだけど、誰が一番すくえるか勝負したの。」

「へぇ。そう言えば深春は中学の友達とは遊んだりしないの?」

「んー。たまに連絡は来たりするけど、最近はあんまり会ってないかな。」

「そっか…。」

ぽん、ぽんと深春はピンポン玉をアスファルトで跳ねさせた。
思いのほかピンポン玉は跳ねて、深春はキャッチに失敗した。

何個かはアスファルトに転がっている。
透明の球体に、金銀のキラキラ模様が入っていたり、蛍光色のピンクや黄色や緑。

私は立ち上がって、転がったままのピンポン玉を拾った。

「駄目じゃん。散らかしちゃ。」

「うん。ごめん。」

深春は笑っているけれど、声も表情も弱々しい。
私は拾ったピンポン玉を深春の手のひらに置きながら、また隣に座った。
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