やわく、制服で隠して。
「ねぇ。まふゆはさ、これからどうする?」

深春は真っ直ぐ前を見たまま、静かに私に訊いた。
蚊にでも刺されたのか、膝の同じ場所をずっと掻いていて、プクッと赤くなっている。

「どうするって?」

「このまま、変わらず“家族”を続けていくの?」

「は…、はは。そんなわけないじゃん。私んとこはとっくに崩壊してたし。さっきママにも話したよ。深春の親に聞いたこと全部。」

「おばさん…、何だって?」

「すごく落ち着いてた。もう隠すことも偽ることも無くなったから気が抜けたんじゃないかな。あんなに穏やかに話が出来たのは久しぶりだった。あぁ、これで終わりなんだって、もう元には戻らないんだなぁって素直に思えたよ。」

深春が私をギュッと抱き締めて、ごめんって言った。
泣いているのかもしれない。
私の腕に顔をうずめているから表情は見えない。

「なんで深春が謝るの。」

「私の親が、深春の家庭を壊したんだよ。」

「私の父親でもあるけどね。」

冗談を言うみたいに軽く言ったけれど、その冗談は笑えなかった。
深春はパッと顔を上げて、もう一度、ごめんって言った。

「深春。謝んないでよ。深春はなんにも悪くない。」

「でも…。」

「それ以上謝ったら本当に怒るよ。深春、私ね、深春が居てくれて良かった。悲劇を分け合えたからじゃなくて、本当に心から深春が居て良かったなって思うの。私の気持ちは変わんないよ。深春は…変わっちゃった?」

深春がぶんぶんと首を横に振った。

「変わるわけない!」

「ん。ならそれだけで十分だよ。あのね、ママが“まふゆのことが大切だった”って言ったの。深春のお父さんへの切り札として、大切だったって。私、うんって頷くことしか出来なくて。悲しくて苦しくて心臓が痛くて、認めたくなんかなかったのに、頭のどっかで納得してる自分も居た。はっきりとそう言われれば、もう修復しようって躍起になることも無いし、ある意味解放されたのかなって。」

深春が目元を拭って、鼻を啜った。
それからさっきの私の冗談に応えるように「お姉ちゃんだなんて思えないよ」って、すごく無理した表情で笑った。

「私も。ねぇ、これって双子ってことなのかな?」

「んー。ちょっと違うような気もするけど。」

私達は、笑えない冗談で笑い合った。
それから二人でいっぱい泣いた。
ママは拭ってくれなかった涙を、深春は何度も何度も指で拭ってくれた。

苦しいはずなのに、心のどこかにポツッと温かい場所がある。
深春だけの場所。今の私を繋ぎ止めているのは、その感情だけだ。
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