やわく、制服で隠して。
場所は当然、屋上一択だ。
運動場側のフェンスの向こう。
金曜日の二時間目。運動場を使うクラスは全学年で無いことを把握していた。

夜に忍び込むのは難易度が高いし、飛び降りようとしている姿を目撃されたら厄介だ。

どれだけ計画を立てていても、実際は思い通りにいかないこともあるけれど、私達はこの二時間目に賭けた。

屋上までの階段を上る。
「天国に続く階段だね。」って深春が言った。
自分で死を選ぶ私達が天国に逝けるかは分からないけれど、こんな人生だ。
天国くらい譲ってくれなきゃ割りに合わないような気もする。

屋上への階段。
最後の一段を、私達は手を繋いで、跳ねるようにして上りきった。

「とうちゃーく!」

今から死のうとしているなんて、誰も思わないくらい、深春の声は明るい。
私も全然怖くなかった。

屋上の扉は施錠されていなかった。

「不用心だね。」

言いながら私は扉を押し開けた。
深春が当たり前って感じで言った。

「この時間、二年生のクラスで音楽があったはずよ。」

「あ、なるほど。」

私の高校は音楽室が変わった場所にある。
屋上の入り口から入って、反対側の扉まで突っ切ると、音楽室、音楽準備室だけの教室がある。
学校で唯一防音設備が整っている場所で、音楽準備室の中には、扉で隔てて吹奏楽部の部室もあった。

「それも調査済みだったの?」

「もちろん。」

深春は得意げに笑った。
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