やわく、制服で隠して。
次の日。
昼休憩になるまで中々勇気が出なかったけれど、深春に促されて、ようやく彼氏にメッセージを送った。

“今日部屋に行ってもいい?”

“まふゆから言ってくるなんて珍しい。いいよ”

“ありがとう”

これから別れ話をされるなんて、彼は絶対に思っていない。
昨日私が帰る時だってご機嫌だった。

今日もどうせ、“私で”遊ぼうって思っているのだろう。

「深春、今日別れようって言ってくるね。」

「私も行く。」

珍しく開放されていた屋上に登って、私達はフェンスにもたれかかって話している。
ゆるく吹いている風が心地良い。

屋上が開放されていることは珍しいから、他にも生徒達が屋上に登ってきていて、お弁当を食べたりお喋りをしている。

私達は、今私にとっては深刻な話をしているけれど、この中の誰にもそれは関係なくて、この人達の悩みや幸せも、私と深春には無関係だった。

同じ時間に同じ校舎の中で過ごして、知り合いなら会えば挨拶くらいは交わし合う。
その中の何人かはすごく仲良くなって“特別”になったりもするだろう。

けれどそれもきっと一握り。
大半の人の人生には関わらずに生きている。

彼氏だってきっとそう。
一度は一番近くに居ても、時間が経てば名前すら思い出さなくなるのかもしれない。

こんなに悩んだって。
肌を赦したって。心をあげなければ、私達は簡単に赤の他人に戻れる。

それを悲しむほどの感情が私の中に芽生えないのは、“恋をしていなかったから”。
簡単なことだ。

隣で気持ちよさそうに風に吹かれている深春を見た。
深春と二度と会えなくなったら私はどうしよう。
考えただけで心臓がキュッとなる。

今日、一人の人間とお別れをするのに、それよりも強い感情で、深春と離れるのは嫌だって思った。
絶対に嫌だ。

誰の人生の中にも残らなくったっていい。
私のことなんてすぐに忘れてしまえばいい。
だけど深春にはずっと傍に居て欲しい。
もしも離れる時がくるのなら、せめて忘れないで欲しい。

せめて、一生、私を忘れないで。
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