やわく、制服で隠して。
頬より少し上、頬骨あたりで薄く色付くチーク。
深春が桜みたいと言ったその色は、正しくはローズだ。

いわゆる“デパコス”ってやつ。
高校生が使うには少し贅沢なそのチークは、入学式の少し前、誕生日にママにおねだりして買って貰った。

案の定、ママにも「高校生には早い!」って言われたけれど、「高校進学は特別でしょ!」とか何とか言って、私も粘りに粘った。

根負けしたのはママのほう。
学校にはつけて行かないことを条件に、買って貰ったそのチークを、もちろんつけないはずがない。

つけてきて良かった、とさえ思った。

「ローズだよ。」

椅子に座ったまま、深春を見上げるようにして言った。

「ローズ?」

「うん。このチークの色。ローズ。」

「へぇ。どっちでもいいけど。桜みたいで似合ってるよ。」

深春は頑なだけれど、私も本当は、どっちでもいいって思っていた。

このチークがローズだろうがピンクだろうが、そんなことは全然重要じゃない。

深春の冷たい指先が触れた頬が、少し熱い。

「私達も、早く行こう。」

「…?」

ぼーっとしていたら、深春にそう言われて、パッと顔を上げた。
深春は廊下のほうを指差している。

「入学式。みんなもう体育館に移動してる。」

「あー、うん。」

そうだ。今から入学式があるんだった。
今日はその為に登校しているのに、それを忘れてしまうくらい、深春との“出会い”は強烈だった。

椅子から立ち上がって、既に歩き始めている深春の背中を追った。

スッと伸びた背筋。
その背中に沿う、しなやかな黒いロングヘアは、やっぱり綺麗で、つい見惚れてしまう。

心臓のあたりがザワザワした。
感じたことの無い感情だった。

なんだろう、コレは。
少し変わった女の子を見つけた。その子に対する“興味”だろうか。

“やっと”友達ができるかもしれない。
学校に通うことが楽しくなるかもしれない。

それならいい。
この心臓がザワザワする理由が、それならいい。

けれど、このことを誰にもバレてはいけないような気がした。

誰かに気付かれてしまったら、全てが終わってしまうような、そんな気がして、だけどどうしてそんなことを思ってしまったのかは、分からなかった。
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