やわく、制服で隠して。

私に話しかけている時よりも低く、威厳のあるその声に、彼は何も言えずに縮こまった。

「まふゆちゃん、ちゃんとご両親にも話して、今後どうするかをきちんと決めなきゃいけないんだ。」

「そうだよまふゆ。このままなんて絶対に駄目。」

「でもっ…、こんなこと知ったらママ…おかしくなっちゃうよ…。」

「大丈夫。僕も、今、君の為に集まってくれたこの方々も、みんなまふゆちゃんの味方だ。自分から話せないならおじさんが話してあげるから。」

「このまま許せるわけない。私は警察に突き出すべきだと思う。」

深春の言葉に、警察…と彼が小さく呟いた。
かと思うと、いきなり大声を張り上げた。

「俺が警察沙汰になるんならその女だってそうだろ!俺に凶器を突きつけたんだぞ!そいつだって警察に突き出せよ!脅迫罪だ!」

深春を指差しながら叫ぶ彼の胸ぐらを、深春のお父さんが掴んで見下ろした。
相当な力で引き上げているのか、さっきよりも彼の背筋が持ち上がって、顎が上を向いている。

「いいだろう。正当な裁きが望みなら、保護者として俺もそうするよ。正当防衛になるかどうかは分からんがな。人生が終わるかもしれないな。お前と一緒に。」

「人生…終わる…嘘だろ…勘弁してくれよ…。殺してない…俺は殺してはいないじゃないか…。」

深春のお父さんが掴んでいた胸ぐらを離して、汚い物でも触っていたかのように、両手をパンパンとはたいた。

彼の目は虚ろで、もう、心ここにあらずだった。

「私、警察に行ってもいいわよ。まふゆの為なら。これでまふゆを守れるのなら、何だってする。」

「深春…。」

「う…うう嘘だよ嘘!警察なんて!嘘!今のは無し!な?全部俺が悪かった…だから…」

「これで話が終わるかどうかを決めるのはお前じゃない。この子と、この子のご両親だ。」

渋々差し出したパパの連絡先に、深春のお父さんが電話をかけて、しばらく事情を話したりしている間に、助けてくれた人達には帰ってもらった。

後日必ずお礼に伺いますと、深春と頭を下げたら、笑顔で「大丈夫だから、しっかりね。」と笑ってくれた。

私の両親がマンションに到着するまで、誰も何も喋らなかった。
リビングに移動して、机の前でジッと待つ。
彼の横に深春のお父さんが座って、逃げ出せないようにガッチリとガードしていた。

見張っていなくても彼にはもう、逃げ出す勇気も気力も無いだろう。
これから自分がどうなるか考えているのか、虚ろな目でぶつぶつと何かを繰り返している。

私は一瞬でも、この人の恋人だったんだ。
大人の恋愛だと思っていた。偏差値の高い、年上の男性との恋愛は、自分の格が上がった気でいた。

なんて馬鹿だったのだろう。
こんなにも周りを巻き込んで、心配をかけて、そして今、一人の人間の人生を終わらせようとしている。

私だって悪かった。浅はかだった。

玄関のインターホンが鳴った。
彼はそちらを見向きもしない。
深春のお父さんが目で促して、深春がゆっくりと立ち上がった。
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