椅子こん!
運命の木

特別な椅子/44街と観察屋の秘密




 そして、ああ、そっか、椅子か、と納得したカグヤはすぐに家に向かう。
「ちょっとまっててね、様子を見てくるから!」
「カグヤのほう、今帰りなんだね」
私が言うと、カグヤは振り返って頷いた。
「そうそう! それについてさ、あとで話があるから、私が来るまで待ってて!」
そして彼女は走って家の中に向かっていく。なんだろう?
明るいがどこか慌てた様子が気になる。


アサヒが、椅子!
となにか思い出したように言った。

「そうだ、あの椅子、なにか特別な椅子らしいんだ……」
いきなりそんなことをいうので、私はびっくりして、どうしたの?と聞いてしまった。
「ただでさえ空から来た椅子さんだよ? 特別に決まってるじゃない!」
「カグヤの家のじいさんが言っていた。あの椅子のようなのがかつては、城とかに繁栄とかを祈願して献上されていた特別なものだったって……カグヤの家の本家がそういう家具屋だったんだ」
「そうなんだ、すごーい」
「椅子が空を飛んでた話にも驚いて居なかった」
「えぇ────!?」

アサヒは、特別な家具を見られて感謝するとカグヤの祖父が話したことを私に伝えた。

「……な、なんかすごいね、椅子さん」

 椅子さんが何者なのか、そういえばわからないままでいる。
だけど、可能性がひとつ生れた。
少なくとも椅子さんもなにかそういった力を持つ存在だ。
 椅子さんはどうして、私と一緒に戦ってくれるのだろう。どうしてあの日、うちの近くにやって来たのだろう。
 嵐がやって来て、ヘリが墜落して、アサヒと一緒に椅子さんも倒れていて────

 カグヤが家から出てきて、こちらに走ってくる。
手ぶらだった。

「あれ? 椅子さんは?」
私が聞くとカグヤは目を丸くしたまま言った。

「実は、その椅子さんが、居ないのよ!」
なんだって!?

「昨日までは──寝ていたって、おじいちゃんも言ってて、だけど、今朝見たら居なかったって! なくしたのか、盗まれたのか、わかんないけど、とにかく、どうしよう!」

昨晩のことを思い出す。
椅子さんは、一度私に挨拶して、それからまた隠れた。

「椅子さん……もしかしたら、私に会いたくてあのあとカグヤの家を抜けて──探しにいったのかも」

「空を飛ぶくらいだからな」
アサヒが頷く。

 女の子は、きょとんとしていたが、すぐにカグヤに聞いた。
「ねぇ、さっき言っていた、はなしって」

「あぁ、そうそう! 昨日のことで」

 カグヤはすぐに昨日のこと、を話し始めた。遠くに見える空には少しずつ朝日が登り始めている。もうじき人通りが増えそうだ。

「ヨウさんが、主張を認めてないらしくて──盗撮の証拠はあるのか? って、重ねる為に脱いだ写真を送ってくださいってなってきて……
どうしますか?って感じで話し合いにすらならずに昨日は終わった」

「どうしますか? って、そんなの一々送りたい人居ないよ!」

憤りが隠せない。
なんでそこまでさせなきゃいけないの? 私だって被害に合っている。他人事とは言えなかった。

「メグメグが被害にあってるのに、
名誉毀損の証明義務はこっちにあるんだってさ!」

「ええええええーーっ!?」

びっくりだ。
もはや名誉がなにかわからない。

「証明も何も、ハクナ自体が怪しい集団じゃない。なのに自分たちは無実を証明せずにこっちにだけ、要求するのよ!? 信じられない!」

 カグヤが激昂する。
ハクナは名誉毀損を便利な道具としか思っていないかのようだ。
嫌なもの、隠したいことを、ハクナのためにこちらが証明しなくちゃいけないなんて馬鹿げている。

「みおちゃんの──」

女の子が小さく呟く。
みおちゃん? 私たちが伺うと、彼女はハッとしたように聞いた。

「ヨウ、って──アニメ『さかなキッチン』の人?」

カグヤが、よくわかったねと言う。
私も魚キッチンの名前を聞いて思い出した。

「あっ、魚キッチンのコラ画像なら、うちにも送られてきてたな。私の身体がコラージュでヒロインのみおちゃんになってた!」
「うちにも? あなたの家も、盗撮に合っているの?」

 カグヤがちょっと怖い顔になる。

「うん……あまりアニメ見ないからよくわからないけど」

感覚がマヒしてしまっているが見たくないのに、家にわざわざ画像を送りつけて来た辺りが自意識過剰な気がする。
 しかし確かにそれも大事件だが、私には、とりあえずは椅子さんだ。椅子さんは今、どこで何をしているんだろう……

「うー、メグメグの件だけじゃらちが明かないし……デモをやめるわけにもいかないし」

カグヤが考え込む。

「そういや、ヨウって、誰? ハクナの人?」

私が聞くと、カグヤが頷いた。

「幼いときから学会に入り浸ってる秀才。
学校に通わずに小学校くらいからほとんどを恋愛総合化学会の内部で過ごしている、幹部クラスの人」

「へぇー!」

「ハクナにも出入りしてるって噂だよ。今の面倒な社会のなか、最終学歴が小卒くらいでも
学会内部だとエリート優遇されてるんだから、すごいもんよね……
恋愛総合化学会を無くしたくない一人だと思うわ」

 小学校のときから、ってことは戦場になりやすい学校に行かずに、
学校での襲いかかってくるスキダから怯えずに大人になったのだろうか。 それはそれで、どんな人なんだろうという興味が湧いてくる。

「でも、アニメとヨウさんに何が関係あるの?」

「既に、44テレビ局の内部に入り込んだ構成員やスポンサーが、映像を操作してるのは知ってるよね?」

知ってる、かと言われればよく知らないが、見ているといえば何度も見ているので首肯く。
アサヒが隣で気まずそうに目を逸らした。

「ハクナを使った盗撮映像を管理して、適切な指事を出すのがヨウさんの取り巻きじゃないかって話なんだけど──
それって結局は、ヨウさん自身がやったようなものというか……でもヨウさんは自分で手を汚してないからっていうか……」

「テレビ局で働いてたやつから聞いたんだが」
アサヒがふと口を挟んだ。

「うちは他局とは違う、という放送は44テレビ局のどこも行わないようになっているみたいだな。ある程度のコードが統一されているからだろう」
「じゃあ、44街の放送が全て、誰かの指事と監視によってひそかに統一されているのね!?」

カグヤが拳を握りしめる。
 確かに、管理体制が出来ているとしたら、一部の管轄にそのまま言っても、きっとらちが明かないわけだ。
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