椅子こん!
ガタッ……ガタッ……
ガタッ……ガタガタ。
 風が吹いている。
外から入ってくる風に合わせて、椅子の身体に声が流れてくる。
全身があったときのように、枝を広げているような、開放的な不思議な感覚。葉を揺らし、他の木や世界と交信をはかったものだった。
 ガタッ……
 椅子が辺りを見渡すと、すっかり真夜中だった。
「────」
 意識。というものを重みを伴って、思い出す。誰かが、足を繋げてくれたらしい。接続は意識を破壊または形成する。
 椅子、というこの形の身体も一瞬の式のように仕様が出来上がっているようだった。

──今の身体には根が無い…………
この形にならなければ力が分散してしまうらしい。
やっと、姫と会話が出来そうだ。


 椅子は作業台から、窓の外に意識を向けた。人間のような眼球からの視覚はない。しかし、この身体は、視覚に匹敵する皮膚感覚を所有していた。窓の外に魚形のクリスタルの存在を感じる。

──今日も、やっている。
アレが人間から生まれる……

 大昔、44街が出来るよりずっとずっと前……木として根付いていた頃は、あのクリスタルは人間にやたらと視認されるものではなかった。
身体、心の中に留まり、今のような質量を伴ってまでやたら人を襲う為に暴れるほどではなかった。

──椅子が、椅子になったように、誰かが、魚という形を与えている。
 誰かに不当に利用されることで、ただしい場所に留まることの無くなった概念体。

 椅子は、身体を組み立てた誰かの精密な手作業に感心しながらゆっくり身体を起こす。本当はこの身体、あと数日置きたい、完全に嵌まりきっていないのだが────ここまで
組み立てられれば、椅子自身の意識をつかうことは容易かった。
 辺りを確認した後に、身体を黄金に光らせ触手を生やす。
触手たちは、自らの戻るべき位置を理解し、それぞれの部位を自ら修復し始めた。
 やがて、カグヤたちが出掛けたのを感じながら、椅子はふわりと浮き上がり、あとに続いた。

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