離婚前夜に身ごもったら、御曹司の過保護な溺愛に捕まりました
「へい、き……だから……気にしないで。智秋のしたいようにして大丈夫……」

「嫌だ。〝思い出〟はいいものにしたいだろ」

 その言葉は私を喜ばせると同時に悲しませた。

 彼は自分のためでなく、私のために〝思い出〟を作っている。

「咲良」

 智秋は私を抱き締め、耳もとで切なげにささやいた。

 恋愛なんて。他人のために自分を変えてもいいと思うような出会いなんて、私にはないと思っていたのに。

 ――好き。

 私はたった一年間だけの夫を愛してしまった。

 最後に贈られたこのぬくもりだけで、どんな夜が訪れても幸せに眠れるだろう。

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