ぶらっくきゃっと
1.ここあ

私は山田ひなた(19)なんて平凡な名前だろうか。そこには突っ込まないで頂きたい。

大学には通っていない。
神奈川県出身、横浜ではない。神奈川県出身だ。
いかに私の人生がままでつまらなかったかをご紹介しよう。

幼稚園、そこそこの可愛さで産まれた私はそこそこ大人に可愛がられて、そこそこわがままであった。

人見知りで、親が別にそこまで熱心に人と関わる方ではなかったから、幼馴染というものもなく幼稚園終了。小学校、中学校、高校、以下同文。
小学校高学年からは、親のせいではなく自分の人見知りのせいだけど

高校を卒業してからは、とある理由で高校時代から貯めていたお金で、知り合いのツテを借り格安ボロアパートに一人暮らしをしている。
防犯なんてないようなもんだけど、そこそこ治安の良い地域だし、警察署も近いので別に不安ではない。

趣味、なし 親友、なし。

フルタイムでパートをしながら、楽しみといえば動画サイトでくだらないおもしろ動画を見ることと、ASMRを聴きながら眠ること。

うん、我ながら見事なまでのつまらない人生である。
SNSで話題の美味しいご飯を楽しんだりだとか、休みの日にカラオケに行ったりできる友達は勿論いるが、今みんな自分の大学での友達作りに必死で声をかけられる雰囲気じゃない。
はあ、と溜息をバイト先の休憩室で小さく吐く。
幸せが逃げていくとかよく言うけど、これはストレス解消にとてもいい。
そんなことを考えていたら、ガチャリ、と、狭い休憩室の扉が開いた。


「あれ?山田さん。今日夕勤?珍しいね」
「おはようございます。今日フルなんです。」


フル!よく働くねえ!なんてニッコリ笑うのは西園寺さんだ。
なんだか雅な苗字だけど、名前だけだよ〜なんてニコニコしながら言えちゃう爽やかイケメンである。
ちなみにすっごい美人の彼女持ち。そしてあの有名国立大学に通う高スペック大学生。

この喫茶店はあの某フラペチーノ美味しい系喫茶店であるので、そういう男性も女性も多く勤めているけど、みんなこぞって超絶美人の彼女持ちか、超絶イケメンの彼氏持ちである。
羨ましい。

そんな私は顔採用ではなく只々時間に融通が効く便利屋採用なので、見事にこの店にいない日はほぼない。


「店長も山田さん頼りすぎだよなあ。なんか手伝えることあったら言ってね」
「はは…ありがとうございます。でも彼女さんの目が怖いのでやめときます」
「あー…だね、逆にありがとう、気を遣って話し掛けないようにしてくれるの、山田さんくらいだからさ。実はめっちゃ助かる…」


西園寺さんの彼女さんは割とメンヘラさんなので、よく店にいるし私と話そうもんなら今晩震えて眠れ!?な目線を私に送ってくる。
いや、かわいいから許せるのだが。西園寺さんも大変そうだ。
そんなところも好きなんでしょコノコノ〜ってできたらいいけど無理だ。
そんな可愛さは持ち合わせていない。だから彼氏も親友もいないのだ。


「では、私はそろそろ。」
「あ、うん。俺もエプロン装着したら行く。また後でね」


つまらない人生において、このバイト先を選んだのは正解だった。
そう、これは趣味と言ってもいいんじゃないか。
顔がいい人を眺めるのは花を眺めるのと一緒だと思う。絵画の鑑賞とも同義だと思う。
今日はいい日だ。うん。いい日だ!

と、思ってた。


< 1 / 2 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop