ボレロ  ~智之の母、悦子の章

「義母は 意識が戻らないまま 眠るように 息を引き取ったんだけど。私 廣澤の義母が亡くなった後 色々 考えちゃって。“ 終わり良ければ、全て良し ” って言うけれど。義母は 幸せだったのかしら、とか。義母が倒れてから 私は できる限り 義母の側に いるようにしていたんだけど。そんな時でも 義母とお義姉さんにされたことは 心から 消えなくてねぇ。
『お義母さん。本当は お義姉さんと一緒に 私を無視していた時 お義母さんは 嫌だと思っていたんでしょう?』なんて 意識のない義母に 話し掛けてみたりしたの。

その頃 私は 廣澤に嫁いで 20年くらい経っていたでしょう。お義姉さんと 会うことは なかったし。廣澤の義父や義母とも 仲良く生活していたのよ。政之さんが 社長を継いで 会社は順調だったし。紀之と智之も 素直に育ってくれたし。私は 廣澤の人間に なれたつもりでいたけど。
でも やっぱり 他人は他人のままなのよねぇ。若い頃の仕打ちなのに こだわりって 消えないの。もし 実の親だったら…いつの間にか 忘れてしまうのに。
廣澤の義母は 最後に近くで 看取った私が そんな風に思っていることを 知っていたのかしら、とか。私の恨みを買ってでも 守りたかった実の娘には 看病さえしてもらえなくて。納得できたのかしら、とか。人生って 悲しいなって。」


「お義姉さん 本当は もっと義母の近くに いたかったんじゃないかしらって。最期くらい…その気持ちは ずっと消えないわ。今でも。
義母の葬儀で 久しぶりに お義姉さんの顔を じっくり見たのね。お義姉さん 昔よりも ずっと 意地悪そうな顔になっていたの。
もし それが 私のせいだったら、って思うと 複雑な気持ちになったわ。もしかして 私が お義姉さんを 不幸にしたんじゃないかって。私 自分が 意地悪されたことで お義姉さんを 恨んでいたけど。お義姉さんにとっては それほど 私が 憎かったわけだから。
だからって 私が 政之さんと 別れることは できないし。それは お義姉さんが 自分で 解決することでしょう?私は 廣澤の家族のために 頑張ってきたつもりだったけど。私の存在自体が お義姉さんを 苦しめていたのなら。私には どうしようもないじゃない。
まぁ 答えなんて でないのよねぇ… きっと 死ぬまで。」






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