指先から溢れるほどの愛を
「いやいや、デートでは……」
「ええ、デートですよ」
その時、背後から私の声に被さって来た低音ボイス。
その声の主は、いつの間にかトイレから戻って来たらしい坂崎さんだった。
「えっ、坂崎さ……っ、ふぐっ!」
すると急に坂崎さんの腕が後ろから回って来て、その骨張った大きな手で何故か口を塞がれた。
180センチを優に超える坂崎さんにそれをされてしまえば、私は後ろからすっぽりと包み込まれるような形になってしまう。
ボボボッ!急激に顔に熱が集まり出す。
……何ですかこの状況は⁉︎っていうかなにサラッと肯定してんですか⁉︎
確かに私もさっきデートみたいだとか思っちゃいましたけど!
慌てて腕の中でもがくも、びくともしない。
「……坂崎さんとご一緒でしたか。先日の撮影ではお世話になりました」
「いえいえこちらこそ」
そのまましれっと交わされる二人の挨拶は至って普通の穏やかなそれのはずなのに、藤川さんの笑みはさっきと違って目が笑っていないような気がするし、顔は見えないけれど坂崎さんの声も若干険を含んでいるような気がする。
……何なんだ、この春の陽気にそぐわないピリッとした空気は……。
「またご一緒する機会もあると思いますので、その時はよろしくお願いします」
「はい、ぜひ」