指先から溢れるほどの愛を
そしてそのまま送り出そうとすれば、


「あのっ、おいくらですか⁉︎」 


と財布を取り出す律儀な女。

でも別にそういうつもりでやったんじゃない。

これはただのお節介でオレが勝手にやったこと。

なのに断っても断っても食い下がる彼女にオレはますます興味が湧いた。

最初に目が合った時にはあんなに不安気に瞳を揺らしていたのに、オレの手で整えられた姿を見た時にはその瞳をキラキラ輝かせて。

かと思えば今度は強い意志を滲ませて譲らない。

……面白い。

だからオレは彼女に、礼がしたいなら内定勝ち取ってからもう一度店に来い、そんな風に発破をかけた。

礼なんていらないけどこのままここで終わらせるのは何となく惜しい気がして、この縁を次に繋いでみたくなった。でもただ繋ぐだけじゃ面白くない。

だから"内定が取れたら"なんて条件を出して。

鳩にフンを落とされたのは、言い換えれば運がついたということ。

そこをオレに拾われたのだってかなり運がいい。

何の根拠もないけど、そんな彼女ならきっと内定を勝ち取ってまた店に現れるだろうと自然とそう思えた。

そして見事に繋がった縁。

名刺の裏に気付かず、まさか正攻法で予約を取って礼をしにくるとは予想外だったけど。
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