イジワルな君の一途で不器用な恋心

「そっか。ほら、これ」



ティッシュを受け取ると、昔の記憶が流れ込んできた。



『お父さんが言ってたんだ。悲しい時は思いっきり泣いていいんだよって』



そう声をかけて隣に座り、失恋して泣きじゃくる私にハンカチを貸してくれた。


今振り返れば受け売りの言葉だったけれど、当時はかなり救われたっけ。

毎日泣いてて、家族からも、いい加減泣き止んでって怒られてたから。



「よく頑張った。偉い偉い」



しゃくり上げて泣く私の背中を擦り始めた。


やめて、優しくしないで。

顔中びっちょびちょになってんぞって。いつもみたいに意地悪な顔で笑ってよ。


大切に思ってるなら、変に期待させるようなことしないで。



「俺の前では我慢しなくていいからな」



そっと抱き寄せられて、トクンと胸が高鳴った。


この音は、4年前に聞いたのと同じ。

毎日のように何度も耳にしていたから痛いほど知っている。


あぁそっか。私──恋に落ちたんだ。
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