素直になれないツンデレ王女はこわもて護衛騎士に恋をする。年の差20歳はダメですか?
2章 過去

幼き姫と護衛騎士

 目を開けた瞬間、その光景は、幼い私には悪夢でしかなかった。

 横倒しになった馬車から、なんとか這い出せば、外の世界はただ赤く染まっていた。

 むせかえるような熱気と、炎、そしてもう誰のものか分からない血の海。

 先ほどまで繋いでいたはずの母の手はない。


「だれか……お母様……」


 辺りを見渡しても、横転した馬車の中にも母の姿はない。

 振り絞る様に出した声も、この怒号の中では誰も気づきはしないだろう。

 逃げなけれな。

 本能でそう思うのに、足が地面に張り付いたように動こうとはしない。

 目の前にいるのが、自国の騎士なのか、それとも違うのか……。

 それすらも分からない恐怖。


「ああ……」

「王女殿下」


 ふいに後ろから大きな声をかけられ、振り返る。

 黒い髪に、灰色の瞳。

 城を出発する前に、お父様から直接紹介された若き護衛騎士だ。胸にはもちろん、我が国の紋章がある。
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