丸いサイコロ

<font size="4">15.順番ずれの事実</font>

 設立記念碑には、ちゃんとおじさまの名前が書いてある。ぼくの父とも、それなりに仲が良かった、彼の名前が、父の隣に。


 そういえば、ぼくの記憶と、まつりが最初に、混ぜたのは、おじさまだった。おじさま、とは、まつりのところの親戚の一人で、ここを建てることを、最初に計画した人である。会ったことはないが、少しぼくに、似ていた、らしい。


そして、おそらくヒビキちゃんの父親。今は存在しない会社の、元トップだかなんだか。

たとえ、事実がどんなに変わらなくても、事実に対する解釈なら、いくらでも変えられるのだ。

自分の中でなら、嘘つきな正直者になれる。

「バカだよなあ……、でも、それでも、何があっても、誰も責めたくない。みんなが好き。ぼくは、それで、いいんだ……そうが、いい」

一人でも責めれば、生まれてから許してきたすべてをまた、憎むことになってしまう。

電話ボックスを出ると、やっぱりちょっと寒かった。果たして、電話はかかったのだろうか?
ガチャガチャと、少し受話器を構ったりしたが……お金は返って来ない。


 後ろに彼女がいたはずだから、なんとかしてくれたのかもしれない。




 気が付いたら手のひらに持っていた手紙を畳む。昔懐かしい電話帳が置いてあると思ったら、わかりやすく、手紙が挟まれていたのだ。

「……私が追い詰められたのは『あなた』が逃げたことによって、私が連れさっていたことも、私たちの関係も、あの作戦も、バレてしまい、そのうち公になってしまうと、焦ったから、か」

さきほど、眠気を覚ますために、ざっと読んだのだが、またしても唐突じゃないか? と、さすがに、不思議な感じはする。

 そもそも、名前は無いのだし、ぼくにあてていたと言い切れはしないが。


しかし、追い詰められた、がもつ意味は読み取ることが出来なかった。
あの作戦、もわからない。
綺麗に畳まれていて、ヒビキちゃんの広げた便箋と同じ紙のものだった。
あの中に入っていたのかな。

「……まあ優しさなんて、案外、こんなもんだよな……誰かの考えって本当に、わからないや。それなら最初から、しなきゃいいのに?」

他人事なので言えるが、そうできないのが、人間だろう。そんなことは、わかっている。


『私をさらったのは、佳ノ宮家を敵対する会社の人たちで、保護する代わりにと、私に協力を迫ってきた。保護なんていっても、私がやったのと同じね。『あなた』の気持ち、少しわかった気がする』

 息を吐いた。少し、首の辺りが温かい気がした。
胸の辺りが、むずむずする。切り替えるべく、頭を振って、とりあえず、中に入ることにした。

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