丸いサイコロ
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『その町は、坂が多くて、なにかとよく風が吹いていて、港に近くて、森があって、湖があって。
そして──笑えないくらい、不釣り合いな、立派なお屋敷があって、そのお屋敷には、幼い、寂しそうな子どもが一人いて、その近くには、傷付いた少年が住んでいました』
「どうしたんだよ、そんな顔して」
──そんな顔? 別に、普通だけど。
「明らかにおかしいって、わかるから聞いた」
──……今日、知人が、一人死んだんだ。
「うん」
──自分から、死んだんだって。
家の人に、おまえのせいだって、言われた。『おまえが来てからおかしくなった』ってさ。
「それは、本当に、まつりのせいなの?」
──……わからない。だけど『そばにいるだけで、みんながおかしくなって、死にたくなる』んだってさ。
……なんで──うまく、いかないのかな。生きていて、くれないのかな。
「……どうして、だろうな」
──今も、お葬式、追い出されちゃってさ。
「……そうか」
……まつりは、酷くて──生きていては、いけないものなのかな。
「……ぼくは、違うよ。おまえには壊せないし、死んだりもしない。だから、大丈夫。耐久力あるからな」
──え?
「ぼくは、お前を見て、やっと、生きていられると、思った。生きていてもいいんだなって思えたよ。敵意も、同情も、これといった興味さえ、向けないでもらえたのは、初めてだった」
──?
「ぼくも、ただの、普通の人間だって、実感できて、嬉しかった。一人、救ったんだぜ」
──まつりは、生きていて、いいの、かな。
「許可なんか、いるかよ」
──……うん。