溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
私がコテっと首をかしげると,真香さんは



「あのあと,何かあった?」



と控えめに聞いてきた。



「え?」

「先輩のキスシーンもどきの後」



何か,なに……

『これが,キスの距離』

ふわっと脳裏を掠めた記憶。

私は右手にぎゅっと力を込めて。

何も……!



「その,千夏と」



私は驚いて,コクリと言葉を飲み込む。



「千夏,くん?」



それが,どうかしたの?



「だから。最近ぎくしゃくしてるし,何かあったのかなぁ? って」

「私,あの日は千夏くんに会ってないよ?」



話す機会も無かった。

凪のクラスの劇は,トリだったから。

表彰の発表があって,片付けをして。

担任の短い挨拶の後,直ぐに解散となったはず。
< 104 / 196 >

この作品をシェア

pagetop