溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。






凪はいつだって優しかったし,嘘なんてつかなかった。

そんなのずっと前から知ってる。

それでも頑なに凪の言葉や態度を信じなかったのは,単に自分が怖かったから。

釣り合わないと知っていながら,凪の事が好きだなんて認めるのが。

好きなんて言って,周りや凪がどんな反応をするのかが。

…こんなに簡単に壊せる関係なんて知らなかった……

だとしても,私が1度も壊したいと口にしなかったのは,そんな理由ではなくて。

ただ,本音では壊したくなかっただけ。

そしてただ凪に並ぶ人になりたかっただけ。

凪がいつも優しいから,相手にされてないなんて思って。

凪に甘えて欲しいと心から願ってた。

一緒にいて良い理由を,1つでも良いから見つけたかったから。

でも,本当は……

そんな風に思う必要すらなかった。

勝手に壁を作っていたのは私。

凪はずっと昔から,私を対等に見てくれてた。

甘えて,甘えさせてくれた。

それだけじゃない。

何度も好きだって言ってくれて,隣に居てくれて,大事にしてくれた。

気付きたくないなんて駄々をこねて,婚約を解消して幼馴染みをしたいなんて自分に嘘をついて,無い壁を見上げては傷ついて。

全ては私の,子供じみたわがまま。

すごく馬鹿げて見えたはずだ。

それでも凪はそのわがままに付き合ってくれて,無理に私の気持ちを暴こうとはしなかった。

なのに……

私は凪を,本気で怒らせてしまった。

本音でなかったとは言え,それを凪も知っているであろうとは言え,口にしてしまったから。

今まで一度も冷えることのなかった瞳の熱を,私が自分で奪ってしまった。

ーもう,きっと戻れない

凪の気持ちと今までの優しさを否定して,裏切った。

それでも私の頭にまず浮かぶのは自責や罪悪感なんてものじゃない。

もっと幼くて最低な,自分勝手な感情。

謝っても許してくれない。

凪に,嫌われた。

ただ,それだけだった。
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