溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
「傷つけたかと思って」



逸らされた視線と,向けられた言葉。

直ぐに理解することは難しくて,私は数回ぱちぱちと瞬く。


 
「それ,は……私が謝らなきゃなのに……ふふ」



なんで,こんなに嬉しんだろう。

間違ってないのに,傷つけたなんて謝るなんて,本当に変なの。

私,傷ついて良かったのかな。

間違いでも,素直に傷ついていいのかな。



「…ごめん。普通に,笑うじゃん」

「え?」



私が柔らかく首をかしげると,千夏くんも笑う。



「よく考えたら,話しかけても答えてくれるし。喋らないとか冷めてるとか,まじごめん」

「うん,もういいよ。文化祭,頑張ろうね」

「おう」



明日は,頬が筋肉痛かもしれないと思った。


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