溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
「そうかな」

「手始めに俺と交換しようよ。大したことないって分かるから。ほら,友達じゃん俺」



何の裏もない笑顔。

人たらしってこうゆう人のこと言うのかなって,その言葉を聞きながら思った。

何年かぶりにQRコードを相手に差し出す。

千夏くんは慣れた手付きで,気分よさげに読み取った。

連絡先が画面に表示される。

自分のスマホを,私はそっと胸に寄せた。



「…ありがと」

「なんかあったら送れよ! ドラヌもん,自信なかったんでしょ? 出来るだけ近くで作業してるから」



凄いなって尊敬する。

私なんて,自分のことですら投げ出したいのに。

私を同時に気遣うなんて。

そんな人,凪しか見たことない。
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