桜舞う天使の羽~天才心臓外科医に心臓(ハート)を奪われました。
そんなことを言ったって分からない。
実際にこの大きな傷を見たら、正悟さんだって逃げ出すに決まっている。
美桜は正悟の胸に縋り付き、涙を流した。その様子を見ていた正悟は、美桜の顎に手を添え顔を上げさせると、真剣な顔で話し出した。
「美桜、俺を信じろ。大丈夫だ俺は逃げ出さない」
布団から起き上がると、美桜と正悟は向かい合った。正悟は泣き続ける美桜の涙を指で払うと、自分を映し出す黒く大きな瞳を覗き込んだ。
「美桜、服を脱がせてもいいか?」
正悟の言葉に、ヒュッと短く息を吸い込んだ。
冷たい空気が肺に流れ込み、身体全体が冷えて行くようだった。
服を脱ぐということは、正悟さんにこの傷を見せると言うこと……いつかその日が来るとは思っていたが、それが今日なのか……。このままズルズルと、正悟さんが私の傷から逃げ出すのを想像しながら生活するのは辛い。それなら今見せてしまった方が良いのかもしれない。
ブラウスのボタンに手を掛けた正悟の指を見つめていると、心臓が大きな音を立てる。ドクンッ、ドクンッと全身から音を立てている心臓に、たまらず美桜は目を一度瞑った。それからゆっくりと瞼を開くと、美桜のブラウスのボタンをゆっくりと外していく、正悟の大きな手を見つめる。そして美桜は願った。
正悟さんはあの二人とは違う……。
お願いだから受け入れて欲しい。
この傷も私の一部なのだから。
全てのブラウスのボタンが外されると、ゆっくりとブラウスの前を開いた正悟が、ふわりと微笑んだ。
「きれいな傷だ」
そう言った正悟が、傷の中心にキスを落とした。そこは体の中心、心臓のある場所……。
「さくらの心臓がここにあることで、美桜が生きられる。さくらが死んでしまった事は悲しいが、美桜が生きられたことに、生きていることに感謝しかない」
そう言って私の体を強く抱きしめてくれた。