公爵騎士様は年下令嬢を溺愛する

第20話 葛藤の終わり



翌朝。
朝食のあと馬車に乗り込みドワイス家へ向かっていた。
カイル様と隣に座り、向かいにはヒューバート様が座っている。
ヒューバート様の隣と足元には頑丈なスーツケースが何個も積んであった。

「カイル様、このお荷物は?」

私の荷物ではないと思いたいけど……。

「支度金だ」
「……これ全部お金ですか!?」
「びっくりしますよねー。通常の倍以上ですよ! いくら、金持ちでも多いですよ!」

私の為に一体おいくら使うのかしら!?
ちょっと怖い。私にそんな価値があるとは思えないんだけれど。

「カイル様……こんなにいいのですか?」
「構わない」

おそるおそる尋ねてみるが、カイル様はお金を惜しんでいる感じではなかった。

それにしても、こんな大金と一緒に帰るなんて来る時とは大違いだった。
あんな古びたカバン一つで、ファリアス公爵邸に行ったのに。
それに、カイル様も一緒だ……。

隣の彼を見ると、腕を組み、足も組んでいる。
無表情だが、怒っているようにも見える。

目の前のヒューバート様は、いつもと変わらない様子で窓の外をニコニコと見ている。至極どうでも良さそうだ。

継母様たちと喧嘩一つしたことのない私には、どんな風になるかわからず、緊張していた。きっと一人なら、帰る気になれなかっただろう。

そんな気持の中、馬車は止まることなく進んでいた。

ドワイス家につき、居間で継母と義兄上と向かい合って座った。
私はカイル様の横に座り、少しくっついて座った。
少しだけ、まだ不安があったからだ。
でも、ヒューバート様も後ろに立って下さっているし、ちゃんと前を見てしようと思った。

「今回は、正式に婚約を申し入れる為にきた。16歳になればすぐに婚約をする」

カイル様は真っ直ぐな顔で、気まずい顔の継母と義兄上に話した。
でも、カイル様もヒューバート様も気にしない。
一緒に住み始めて薄々感じていたけれど……この2人に動揺も緊張という言葉もない。

何も言わない継母様と、俯いて項垂れている義兄上に、カイル様はペースを崩さずに話を進めている。
目の前の2人は、この迫力のある顔が怖いのだろうか。

「ヒューバート!」
「はっ!」

カイル様がヒューバート様の名前を呼ぶと、ヒューバート様が支度金のスーツケースを並べた。
ヒューバート様はいつもの笑顔と違い、キリッと騎士様の顔をしていた。

「支度金だ。受け取りなさい」

カイル様が支度金を出すも、継母も義兄上も顔を見合わせて、困惑したように受け取らなかった。

「……私達にこのように出していいのですか?」

やっと口を開いたかと思うと、継母が申し訳なさそうに言った。
それでもカイル様は動揺なんてしない。そして、睨む。

「……正直、何故ルーナに辛くあたったのかは聞きたい。話せるなら話してもらおう」

継母も義兄上も、私達がきた時から観念しているような表情だった。
カイル様に会う前の私なら下を向いたままできっと気付かなかったのでは、と思う。まだ少しの期間しか一緒にいないけれど、それくらい、彼に支えられていると感じる。

「……辛くあたったのは嫉妬していたのかもしれません……」

嫉妬?
何故継母が私に嫉妬をするのかわからない。

ポツリと話し出した継母に、疑問が沸いた。

「ルーナの父親であるドワイス伯爵は、ルーナの母親が流産と共に亡くなったことにショックを受け、それからは子を望みませんでした。そこで、次の爵位を継ぐ親戚から養子を取ることを決め、息子のいる未亡人だった私に話がきました。でも、もう子を望まないドワイス伯爵と、また子をもうけたい私にすれ違いがありました。その上伯爵は、前妻と同じ銀髪のルーナを見たくなくなり、ルーナと関わりませんでした。見たくないのも、前妻を思い出すのが辛かったのでしょう。
それに気付いた時には、私はルーナに苛立ちを感じ、あのような仕打ちにしてしまいました……」

私がお母様と同じ銀髪だから?
思い出すのが辛くて?
知らなかった……。
お父様はただ、子供に興味がないだけだと………。

「ドワイス伯爵が亡くなり、ディルスが予定通りに伯爵を継ぎましたが、結婚の話は上手くいきませんでした。……理由はルーナを見た令嬢が断り、破談になったからです」
「わ、私ですか?」

驚いた、義兄上の結婚の話も知らない。一体いつそんなことがあったのだろう?
ましてや、相手に会ったこともない。

普段から、この家ではよびだされない限り、継母や義兄上と関わらなかった。
食事だって、一緒に摂らなかった。
私には、お茶を出してくれるメイドだっていなかったから、自分で厨房に貰いに行っていたのだ。

困惑している私を目の前に継母は話を続けている。

「……始めにきた令嬢がたまたま廊下を歩くルーナを見たのです。何故、妹があのような古いドレスをきているのか? と不審に思い調べたそうです。恐らく、使用人の誰かが話したのでしょう。理由を知ると、その令嬢は破談を申し入れてきました。次の令嬢も、最初にきた方から破談の理由を聞いて、断りを入れてきました。
だから、このままこの邸にルーナがいるとディルスは結婚できないと思い、邸から出しました。結婚の為なら誰も不審に思わないと思いましたから。
ルーナが結婚できず、追い出されても、帰って来ると思っていました」

きっと継母は私が泣きついて帰って来ると思われたんだわ。
でも、私はもう帰れないと思い込んでいた。

「俺がルーナを婚約者にしなくても、建前がそろうと思ったんだな。俺の噂を知っていたのか……」

カイル様、厳しい目で話した。

カイル様は、いつも婚約者を受け入れなかったから、それを狙って、継母たちは『いつも通り、ファリアス公爵様との婚約にたどり着けなかった令嬢』とするつもりだったのだろう。
その後は、修道院かどこかに追い出す気だったのではないのだろうか。
義兄上の婚約者には、婚約の出来なかった妹でも話すつもりだったのだろうか。
私に辛い仕打ちをしていたことは知られたくないのだろうから……。

「「申し訳ありません!」」

カイル様の言葉に、見透かされたと思ったのか継母と義兄上は頭を下げ謝った。

「……義兄上、今は結婚はどうされたのですか?」
「……出来なかった。ルーナに街で会った前日に断られたんだ」

義兄上は下を向いて小さな声で言った。

「では、あの街での事は八つ当たりか?」

カイル様が、低く凄みのある声でそう話した。
びくりとした義兄上は、もう返事も出来なかったのだろう。
無言だった。それに、カイル様が怖いのだろう。

「貴殿らにも思う所もあったのだろうが、二度とルーナに手を出すことは許さない。ルーナと俺の温情で、何の咎もせんが、ルーナは俺の妻となるのだから、貴殿らより位が上になる。そのことを忘れるな」

カイル様は、ハッキリと言われた。
俺の妻と……。
それに立派な威厳がおありだった。
これが公爵騎士様の威厳なのだろうか。

「「申し訳ありませんでした」」

二人は声を揃えて、また頭を下げた。



長い話が終わり、馬車まで継母と義兄上が見送りにきた。
こんなことは初めてだった。

「……ルーナ、すまなかった……」

義兄上が謝った。
いつも自信たっぷりの義兄上とは別人のようだった。

「……義兄上、もういいのです。私が知らなかったことばかりですが、私と父のせいで継母や義兄上も辛かったのがわかりました。何も知らなかったことは私も謝ります。申し訳ありませんでした」

継母と義兄上に私も謝った。私にわだかまりはないからだ。
それは、この家にもう帰ることがないからだろう。

来る前は、もしかしたらいつかファリアス公爵邸から出されるかも……と微かに思っていたけれど、今は違う。
カイル様は、人前で妻になると言ってくれたのだ。

その私をカイル様は、肩に手を回して抱き寄せてくれた。
それは、嬉しいことだった。
どんな理由で追い出されたとしても、それがあったから彼に会えたのだ。
だから、追い出されたことを恨む理由もない。

「義兄上、カイル様と会わせていただきありがとうございます」
「……夫人、ディルス、俺にルーナを会わせてくれたことは感謝する」

私とカイル様は二人で同じことを伝え、カイル様を見上げると彼も私を見てくれた。
継母たちに、今は和やかな気持ちはないだろうが、私とカイル様は違う。

さっきまでの話し合いの時と違い優しく目を細めて見てくれるカイル様が私の手を引き馬車に乗ると、馬車は走り出した。
窓から二人を見ると、ずっと頭を下げたままだった。

もう、実家での葛藤はない。
実家でのことを忘れることはないが、今までと気持ちが違う気がした。


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