この政略結婚に、甘い蜜を
その目を見ると、華恋は言葉が出なくなってしまう。傑に無理矢理迫られたあの時よりも怒っている、そう理解した瞬間に恐怖から何も言えなくなってしまったのだ。

「兄さん、金髪碧眼であんなに美人な奥さんがいながら浮気?しかもよりによって僕の華恋と?ふざけてるの?」

零に睨まれ、龍羽は固まってしまう。零は拳を強く握り締め、それは皮膚に爪が食い込んでしまいそうなほどだった。彼の体は小刻みに震えている。

「華恋もさ、結婚した時に言ったよね?「好きになるのはダメだ」って。それなのに、結婚式場に来て何してるの?僕と離婚して兄さんと結婚式を挙げるために下見してるの?……絶対に許さないから」

そう言うと、零は華恋に近付いてきた。そして、華恋の手は乱暴に零に掴まれる。今まで零は優しく、まるで割れ物を扱うかのように華恋に触れていた。だが、今掴まれている華恋の手は悲鳴を上げている。

「零さん、痛いです!放して!」

華恋はそう言ったものの、零はそれを無視して歩き始める。手を掴まれている華恋も強制的に歩かされ、駐車場に止められた零の車に乗せられる。

零の瞳は、冷たいままだった。
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