この政略結婚に、甘い蜜を
狭い和室には、家具屋で売られているような綺麗で新しい家具は何一つない。どれも古びていて、壊れかけているものもある。

そんな部屋の中で、純粋な少女は母と布団の上で眠っている妹の間に座り、甘い空想の世界を膨らませていく。これが裕福とはいえない少女の楽しい時間だった。

その時、バタバタとアパートの階段を誰かが急いで上ってくる音が聞こえてくる。子どもが寝る時間のため、母は顔を顰めていた。だが、勢いよく走ってドアを開けたのは、会社員である父だった。

「たっ、ただいま!!」

父はどこか興奮した様子で、「まさか僕が……」などと呟いている。母はいつもとは違う様子の父に気付いたようだが、少女は「おかえりなさ〜い!」と言い、いつものように父に抱き付く。

「ありがとう。お母さん、聞いてくれ。僕は会社の社長に選ばれたんだ!」

「えっ!?それ、本当なの!?」

父の言葉に母はひどく驚き、大声を出す。少女は父の言葉がわからず首を傾げていたが、父は母にこれからのことを話し始めた。
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