この政略結婚に、甘い蜜を
「今の社長さんが家を譲るって言ってくれているから、今月末には引っ越せるようにしよう」

「この貧乏生活から解放されるのね!」

両親は抱き締め合って喜んでいたが、少女にはさっぱりわからず、これだけ騒いでいるのにちっとも起きる気配のない妹のそばに移動し、首を傾げていた。

少女の生活は、一月ほどであっという間に変わってしまった。

使用人が何人もいる大きな屋敷に住むことになり、それまで着ることのなかったフリルやリボンがたっぷりついた可愛らしい服を着せてもらい、それまで憧れていたピアノや英会話などの習い事もさせてもらえるようになった。

「私、お姫様になれたんだ!」

少女ははしゃぎながら、セレブしか通うことの許されない学園の門をくぐった。



運命が変わった日から十六年、部屋に鳴り響く目覚まし時計を止めた後、ベッドから起き上がった花籠華恋(はなかごかれん)は、「あっ、今日お店定休日だった」と早く起きてしまったことを後悔する。
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