この政略結婚に、甘い蜜を
(この人は、御曹司の自分の隣に立つのに相応わしい格好をしてほしいだけ。可愛いとか、本気で思ってるわけないじゃない)

社長婦人ならば、ブランド物を一つや二つ持っているだけでは笑われる。そう思って零はいくつも笑って買っているのだと、そう思うと華恋の中で申し訳ないという気持ちも冷めていく。

バッグと財布を買った後、おしゃれな靴屋で可愛らしいミュールや厚底靴、ハイヒールやパンプスなど、華恋がもう何年も履いていない靴を買ってもらい、その後は下着まで可愛いものを買ってもらった。

「せっかくだし、可愛い服で毎日過ごしてほしいな。そっちの方が華恋らしくていいよ」

夕食をレストランで食べながら、零がニコリと笑う。その笑顔の裏には、「僕の妻になるんだから、変な格好はしないでほしい」と冷たい感情があるような気がして、華恋は「わかりました」と言い頷く。

仲良くなるために行った初デートは、心の距離がまた広がったような気がして、華恋は空っぽの心のまま、パスタを口に入れた。





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