この政略結婚に、甘い蜜を
何もなかったかのように微笑む零を見ていると、罪悪感が華恋の胸の中に広がっていく。「初恋の人」がいたから倒れてしまったなど、口が裂けても言えないことだ。

(それに、あんなひどい初恋なんて知られたくない……)

華恋は、ぼんやりと光り輝く夜景を見つめた。



華恋と傑が出会ったのは、小学校から大学までエスカレーター式の学園でだった。

セレブしか通うことが許されない学園で、成金とはいえお嬢様になった華恋は、仲のいい友達を作り、おしゃれを楽しみ、習い事や勉強に励む女の子だった。

そんな華恋が小学六年生の時、京都の姉妹校から転校生が来た。それが傑だ。

由緒ある名家である五百雀グループの御曹司で、京都出身。それだけで注目が彼に集まる。

鋭い猫目に薄い唇、だが華やかな顔立ちの彼に、華恋はもちろん多くの女子生徒が頬を赤く染める。この頃になると、少しずつ異性を意識し始める頃だ。

(京都の学校の子より可愛いって言われたらどうしよう……)

甘い想像をしながら、華恋はニコニコとしている傑を見つめる。だが、開いた彼の口から飛び出した言葉は、これから共に学ぶクラスメートに対して言うものではなかった。
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