この政略結婚に、甘い蜜を
仕事が終わり、家に帰りながら華恋はふと思う。久々にパーティーに出席することに緊張し、御曹司である彼が参加するかもしれないということをすっかり忘れていたのだ。

「あの人が私に気付いていないといいんだけど……」

零には、もちろん傑のことは話していない。零は変わらず華恋に積極的なアプローチをし続け、そのたびに華恋は胸の高鳴りと共に何故か罪悪感を感じてしまう。

モヤモヤとした気持ちが込み上げ、華恋は首を横にブンブンと振る。嫌なことをずっと考えていたくない。

(それに今日は、私の好きなハンバーグを零さんが作って待ってくれているし……)

今日は零がたまたま早く帰ることができるため、「夕食を作るよ!」と言ってくれたのだ。暗い顔をして零を心配させたくない。

早く帰ろうと華恋が足を早めたその時だった。記憶に深く残った声が響く。

「花籠?」

華恋が振り返ると、和服を着た傑と視線が絡み合った。






< 95 / 186 >

この作品をシェア

pagetop