最初で最後の恋をする
「こんなはずではなかった。
まさか、あんなガキにみやび様を奪われるなんて………」
冴木が、苦しそうに顔を歪めた。

「まだ、時間はある。
俺は、お前なら國枝の名前を捧げてもいいと思っている」

「でも、もう……みやび様のお気持ちは、波牙 厘汰にしかありません。
僕が14年かけて培ってきた信頼を、あいつは……出逢ったあの日に勝ち取っていた。
本当は“最初から”こうなることは見えていたんです」

「波牙に、みやびをやれと言うのか?」

「みやび様と厘汰様には、関係ないことです」

「確かにな…
でも、あいつを奪ったのは……波牙だ!」

「しかし、みやび様にははっきり“冴木はお兄様”と言われました」

「………なんで、よりによって“波牙”なんだ?
それなら、花菱の方が……
━━━━━━!!!?
花菱 武虎か……!」

「━━━━━━旦那様?
何を考えて━━━━━は!まさか……!?」


一方、みやびは屋敷の門を出ていた━━━━━━

スマホだけ握りしめ、キョロキョロしていると……
タタタタ…と足音がして、厘汰が駆けてくる。

胸が苦しくなる。
でも……とても幸せな気持ちになる。

目が熱くなって、みやびも厘汰の方に駆け出した。

「厘汰!!」

「みやび!!」
「厘━━━━━」
石に躓く。

「みやび!!?」
間一髪で、厘汰が抱き止めた。

「………ったく!
急に走るなよ!また、躓いたじゃん!」

「━━━━━たかった……」
「ん?何?」
みやびの顔を覗き込む。

「厘汰」
「ん?」

「好き」

「え………」

「好きなの」

「みや…び……?」

「厘汰のこと、本気で好きだよ!」

「みやび…ほん…と?」

「ここが、苦しいの!」
胸を押さえる、みやび。

「みやび…」

「さっき別れたばかりだったのに、会いたかった。
厘汰ともっと沢山、お話がしたい。
ずっと一緒にいたい。
放れたくない。
厘汰、お願い!
私を、厘汰の恋人にして?
私を抱き締めて、放さないで!」

「みやび」
「ん?」
「もう一回、言って?」
「え?」

「俺のこと、何?」

「好き」

「もう一回」

「好き」

「もう一回」

「好━━━━━んんっ!!!」
みやびの言葉ごと、口唇を奪った厘汰。
みやびもゆっくり目を閉じた。

みやびの頬に、涙が流れる。

厘汰は口唇が離せない。

このまま………窒息しても構わない━━━━━━

そう思える程の、狂喜がそこにあった。
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