これは、ふたりだけの秘密です



郁杜がホッとした表情を見せたのが気になった。

「どうしてあなたが感謝だなんて……」

「弟は、秋に結婚が決まっているそうだ」
「ああ……そうだったんですか……結婚……」

病気の母親を思って朱里と別れた人だ。
きっと、あの大きな料理旅館を継ぐために結婚を決めたのだ。

朱里を思って男泣きする颯太の姿が思い出された。
朱里を愛していたことに偽りはないだろう。
だが、相手の人はなにも知らないのだ……怜羽にはどうすることも出来ない。
これ以上颯太に関わって、真理亜のことを知られたくなかった。

「君には申し訳ないが、弟に言わずにいてくれて助かった」

郁杜は子どもの存在が弟の縁談に差し障ると思っていたようだ。
 
「君には申し訳ないと思っている。でも、今は弟と母のために黙っていてもらいたい。いつかきっと、いい形で弟に真理亜の存在を知らせるから……」

親が離婚してから今日まで母や弟と会っていなかったのだから、
そっくりな弟の存在を知らなかった郁杜を責めるわけにいかない。

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