これは、ふたりだけの秘密です
だが郁杜に詫びられても、怜羽は釈然としなかった。
(子どものことを言わなかったのは、あなたたちのためじゃない)
郁杜は颯太の兄だから、不愉快さを顔には出さないように気をつけていた。
だが、朱里の思いを踏みにじった颯太のことを怜羽は許したわけではない。
「真理亜は私の子です。颯太さんには子どもの存在を伝えないでください」
「だが、このまま弟が子どものことを知らないのも……」
郁杜は弟の幸せをぶち壊すなと言いながら、真理亜をいつか颯太に会わせたいと言う。
あまりに矛盾していて、片岡兄弟に都合のいいことばかりではないか。
怜羽は悔しかった。
「初めから真理亜はひとりで育てるって言ってるわ!
私、あなたたち兄弟に助けてほしいなんて、ひと言も言ってない!」
思わず強い口調になってしまってから、怜羽は慌てた。
自分の方こそ、郁杜に謝らなければならないと気がついたのだ。
「ただ、あなたのこと父親だって決めつけてしまたことは謝ります。
ほんとにゴメンなさい」
(そうだ、真理亜の産みの母親のことも言わなければ……)
そう思いながらも、怜羽は真実を打ち明けるべきか悩んでいた。
(もう二度と片岡兄弟に関わらないなら、知らせなくてもいいはず)