俺の世界には、君さえいればいい。
彼からはそんな自信のようなものが見えるのに、私の目にはやっぱり心配にも映るのだ。
負けてしまうことに、それで櫻井という名を汚してしまうことに怯えている部分もあるのかなって。
だから何としてでも勝つ、たとえそれが自分の身体を苦しめたとしても───。
櫻井くんからは、そんなふうに伝わってくる。
「だから絶対に勝ちたい。…なのでこのこと、顧問にも秘密にしておいてくれませんか」
冷や汗を拭うように、彼にしては珍しい顔だった。
優しい中に焦りもある顔で。
そんなの放っておけない…。
だから無意識にも櫻井くんの袖をくいっと掴んでしまってた。
「由比さん?」
「っ、櫻井くんは…格好いいよ、」
「…、」
どんな姿の櫻井くんも、格好いいよ。
私も同じだから分かるの。
代々有名な家柄に生まれると、それを守るために、継ぐために必死なの。
私だって周りから固すぎて真面目すぎるって昔から言われてきたけれど、本当は髪を染めたりもしてみたい。
だけどそれは由比家の娘として出来なくて、ちゃんと家柄を守るために貫かなきゃいけないことで。