ノート



早く学校に行くのは、嫌いだ。

「好きな本とかないの?」
「ない」

「好きな漫画とか」

「ない」

 何回、こんな無意味なこと聞かれなきゃならないんだろう。

遅刻せず早めに登校した日、クラスメイトからの何回目かの質問を無視して、椅子に座っていた。
 俺に興味を持つやつは、だいたい好きな本や漫画やアニメがあった。
あまり友達を作らなかったのは、それらにほぼ興味関心がなかったから。あの、趣味の輪に加わらなくちゃならないのかと思うと地獄だ。


社会に価値観が合わないのか、

読む本も見る漫画も、大体、俺の存在を透過していくようだった。
何を読んでも、否定されているような感じがして、読まない方がマシだ。

親は大事にするものよ、とか、友達だからだろ、とか、好きになっちゃったとか熱く語られても、何も響かない。

だから?それで?疑問符しか浮かばない。

早く来たものの教室に居づらくて、廊下に出ていった背中に、やっぱりあいつはつれないよなと聞こえた。

ここは地獄だ。


 どこかで聞いたような言葉を誰かか喋り、何かで見たようなシーンを誰かが再現するだけ。

これが、『生きている』なんて、退屈だ。

全部どうでもいい。


死ね。



ばたん、とドアを閉めて一息ついたはずが、廊下には廊下でひとがぞろぞろ居た。

「そういえばもうすぐ父の日だな。うち家族サービスがどうとかうるさくて」

「うちは、今度出掛けるよ」

 廊下に出て歩く間、そんな会話を聞いてそういえばもう、そんな時期かと考えた。
小学生のときには、母の日の作文とか、絵を描くとかさせられたっけ。
 隣の席に座ってた女の子が、泣いたんだ。それから悩みに悩んだのか、
黒いリボンを頭につけた、四角い形にふちどられた女性の絵を描いて、俺の隣にそれが飾られた。
 みんなが好きなものなんて、結局、誰かを殺すためのものだった。
学校も小説やアニメや漫画もだから、嫌いなんだ。見たら、死にたくなる。
俺や、あの隣の席だった子や誰かが、うまく歩くけずふらつきそうになっている間に『背中を押しに』来るような気がした。
「あ。今日は早く来たんだ」
階段を降りて一旦帰宅してから来てやろうかと血迷っていたら、清白菜(すずしろ)が声をかけてきた。俺はなっちゃんと呼んでいたが深い理由は無い。
「なっちゃん、おはよう」
「おはよう」
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