ノート

その日の夜。
帰宅して部屋に戻り、机を見た瞬間いつもと違って、身体がこわばった。

あれ??

 あまりに拠り所だったせいでそれに触れることさえ身体が拒むのがわけがわからない。
――夜中に叫び出したくなった。
なぜ、なぜ、出来ない。
ノートについて誰にも話してないし話したくもなかったけど、苦しい。
なんでこんな目に合うんだかわからなくて、
拒絶する自分がわからなくて怖い。

衝動的に部屋から飛び出す。

しばらく歩き回れば気が晴れる気がした。
頭のなかが、ただひたすら、ぐちゃぐちゃに混乱している。

背後からたったったっ、と近づく音がして、
振り向くと靴底が勢い欲俺をシャツ越しに蹴った。
底のあの柔らかい感触と、誰かの体重が、肌を生ぬるく引っ掻く。
わんわん響く大声で間近から男が、叫んだ。

「あーあーあああーっ!!俺は誰でしょう?!」


低くて気持ち悪い声だ。しかも、いきなり耳元で叫ぶなんて、頭がおかしい。

「うるさいな……」

 振り向き様に殴ろうと思ったそいつは、ニヤニヤと笑う、あのストーカー男だった。
不気味だった。
何よりも勝手に部屋に侵入したことなどなんとも思っていないようなその目。とにかく視界に映ろうと言うだけのような、そのにやけた顔。
 なんて、恐怖なんだろうか。
サイコパスにあった人はこんな気持ちになるのでは。
「夜の散歩に恋人をおいていくなんて、酷いなぁ」
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