跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
十一月の中頃に及川で使用するタイルがついに完成し、参考にとギャラリーに届けられたものを、父が真っ先に私に見せてくれた。カラフルな花柄や、グリーン基調とした連なる葉を描いたもの、青一色の花を散りばめたものなど、どれもオシャレなデザインで一目で気に入った。

それからしばらくして、それらのタイルを使用した及川のモデルルームが一般に公開されると、加藤の従業員もにわかに浮足立った。


出勤日である今日は、午前中を使って届けられたタイルと、及川のマンションを紹介するコーナーが設置した。それを終えて休憩時間になると、行儀は悪いが資料を片手に事務室で昼食をとっていた。

「失礼するわね」

そこに入ってきたのは、岸本さんだ。スーツをシュッと着こなす彼女を前にすると、無意識のうちに背筋が伸びる。

「ご一緒させてもらっていいかしら?」

ランチは普段外で食べていた彼女だが、今日は珍しく購入してきたようだ。この後会議の予定も詰まっており、やむを得ずといったところか。

「どうぞ」

千秋さんとの結婚について運がいいと言われて以来、私が一方的に抱いていた蟠りは時間の経過とともに薄れつつあるが、ふたりきりの状況はできれば断ってしまいたい。でも、さすがに角が立つだろう。仕方なく机に広げていた資料を横に片付ける。

「タンブラーだけど、なかなか話題になっているみたいね」

加藤のタイルを使用したマンションのモデルルームが公開されると、その高級感あふれる内装や立地条件のよさから大きな関心を集めていた。同時に、加藤ブランドとのコラボも話題になっていたと聞いている。

最初は軽い反応だったようだが、陶器ではなくタイルの提供だったのと、加藤の製品では見られなかったような華やかな柄ものを採用したことに驚いたのか、反響は少しずつ大きくなっている。


< 107 / 174 >

この作品をシェア

pagetop