跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
毎晩同じベッドに入っても、帰りが遅いために口づけだけして眠る夜が増えた。
忙しい状況を考えれば仕方ないが、それをひどくもどかしく感じるほどに千秋さんへの思いが大きくなっている。

仕事での実績が彼への恩返しになるのだから、今は我慢するときなのだと自身を諫めているが、どうしても不安になる。でも、もやもやした気持ちを正直に話す勇気はない。
心の片隅に居座ったままの不安は、きっと杞憂にすぎないと信じている。

しかしそれも、バリバリ働く岸本さんを目にすると弱気な自分が顔を出す。気を抜くと、すぐによくない考えに支配されてしまう。

千秋さんはもしかして、子どもを作ることに迷いが生じているのだろうか。夜の夫婦のふれあいが頻繁でなくなったのは、忙しくて疲れている私を労わっているからか、それとも子どもを持つことに対する考えが変わったからなのか。

もしかして最初は、菊乃さんのためだけに子どもを作ろうとしたのかもしれない。けれど冷静になって考えたとき、その相手が私でなくてもよいと気づいたとしたら?
及川不動産にとって最良の相手は、ほかにたくさんいるだろうから。

千秋さんに求められていない。その可能性に、胸がズキズキと痛む。仕事に集中していないと、思考が負のループに陥ってしまいそうだ。

私がもっと大人になって岸本さんのように仕事ができる女性だったら、千秋さんは好きになってくれるだろうか。そんな疑問が幾度となく頭をよぎった。

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