跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
ビジネスの面で助けてもらったお返しをすぐにするのは難しいが、タンブラーが好評なのを足掛かりにさらに名が売れれば、少しは及川不動産のメリットになる。

今後も、及川が手掛ける事業に協力する予定になっているし、細々とはいえ役立っていける。その交渉だってもう千秋さんが出てくることはないだろうから、顔を合わせる心配も少ない。
 
加藤がタイルを提供した及川のマンションの予約がはじまったのを見届けたら、落ち着いた頃に千秋さんに離婚を切り出そう。少し時間をあければ、経営者のプライベートな問題も業績に響きはしないだろう。

彼のいない生活を想像すると苦しくなるが、それもきっと時間が解決してくれる。
心の内でそう決心すると、自身の感情に蓋をした。


それ以降は、意図的に千秋さんを避け続けた。
以前はできる限り彼の帰宅を待って一緒に夕飯を食べていたが、合わせるのをやめた。千秋さんがひとりで食事をしている間は、机に資料を広げて持ち帰った仕事をこなす。それに対して最初は不満そうな表情をした千秋さんだったが、数日続ければ慣れたのか、なにも言ってはこなかった。

避妊をしないで彼に抱かれてしまえば、子どもができてしまう可能性がある。だから、今後は行為を拒まなければいけない。とはいっても、いきなり寝室を別にするのはあからさますぎる。

禍根を残すような別れ方は、絶対にしてはいけない。明るくというとそぐわないが、その後もよい関係でいられるようにしたい。未練がましい気持ちもあるが、それとは別に、今後の会社同士のつながりを考えると喧嘩別れだけは避けたい。

子どもっぽいとわかっていたが、千秋さんがお風呂に入っている間にさっさと寝てしまうつもりで先に布団にもぐるようにした。もちろん、いかにも疲れているアピールもしながら。

現金なもので、そんな状況でも意外とすんなり眠れてしまえた。千秋さんの方も、わざわざ起こしてまでどうこうする気はないようだ。目の前で持ち帰った仕事をする姿を見せているのだから、そのあたりも気遣ってくれたのかもしれない。

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