跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
一週間もすれば、そんな私の姿も不自然でなくなった。
彼が夕飯を食べはじめたタイミングで、もはや恒例のように机に資料を広げる。

「最近、張り切りすぎじゃないか?」

不満そうな口調で尋ねる千秋さんと、視線を合わせる。

「今頑張らなくて、いつやるっていうの」

いかにも真剣に取り組んでいるふうを装って若干オーバーな言い方をすると、千秋さんは目を細めてなにかを探るように私を見た。

「へえ。ずいぶんと気合が入ってるんだな」

「と、当然よ。加藤にとって今が重要なときなんだから」

どこまでも強気を崩さない私に、千秋さんがくすりと笑う。彼の余裕たっぷりな様子に、どうしてか焦りを感じる。

「そうか。生きていく中で、誰しもここぞという外せないときはあるしな。愛佳にとって今がそれなんだな?」

「え、ええ」

念を押すように尋ねてられて、危うく気圧されそうになった。
自分の行動は決してそんな高尚な考えからではないせいで視線が泳いでしまったが、平静を取り繕ってうなずき返す。

「こうして毎晩、夫婦の時間を削ってまでやり遂げる必要があると、愛佳は思ってるんだな?」

千秋さんの話しぶりに意図的なものを感じるが、私がなにかを言えば上げ足を取られかねない。
このまま彼との距離を広げていって、いずれ離婚を切り出す予定を邪魔されるわけにはいかない。

「そ、そうよ」

「ふうん。愛佳の心意気はわかった。俺は、そのやる気を尊重するとしよう」

「わかってもらえて、よかった」

強張った体から力を抜いて彼から視線を外すと、再び書類に目を落とした。
もう話は終わったとほっとしていたが、千秋さんがさらに話を続けてくる。

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