跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
嫌な予感がしてならない。それなのに逃げるのも許されないようなこの空気感に、背筋が寒くなってくる。震える唇をぐっと噛みしめて、千秋さんを見つめる。

「お前、かわいいから気に入ったよ。飼ってやろうか、嫁として」

「なっ……それ、嫁というよりペット枠!」

あまりの言い草に状況を忘れて反射的に言い返すと、千秋さんはおかしそうに声を上げて笑った。

「まあ、愛佳がそう捉えたのなら、それでもかまわん」

かまわないって……。
ここまでのやりとりでも感じたが、この人は私をおもちゃにする気満々のようだ。
まさか、結婚の代償を忘れているのだろうか?

「え、えっと……千秋さんは、私と結婚して加藤製陶を手助けするのもやぶさかではないと?」

「ああ。ついでに、愛佳をかわいがってやるかな」

「つ、ついで……」

いや。ついでという発言ではなくて、〝かわいがってやる〟の方が問題なのか?
規格外の人物を前にすると、なにが正論かわからなくなる。

「加藤製陶の再建は、不可能な話ではないと踏んでいる」

それが突然、こんなふうに真剣な表情をして話し出すから理解が追いつかない。慌てて背筋を伸ばして耳を傾けた。

「聞いているかもしれないが、こちらとしてもタイル作りで協力してもらえるとなれば、悪い話でもない。それに妻になる予定の女が、なかなかおもしろいやつだとわかったしな」

最後の一言がなければ素直にうなずいたかもしれないと顔をしかめたが、それすらおかしそうに見られてしまう。話のふり幅の大きさに混乱を極めるばかりで、たまらず非難めいた声を上げた。

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