跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
その日のうちに母にも伝わるのなら、菊乃さんに黙っているわけにはいかない。少しの時差にとやかく言うような人ではないが、散々よくしてもらっている彼女をのけ者にするような事態は自分が嫌だ。

その気持ちを千秋さんに伝えると、彼は嬉しそうな顔をして早速菊乃さんに連絡をした。ただ直接会って話したいという私の意を汲んで、電話では会う約束にとどめてもらってある。

「報告があると言った時点で、いろいろと察したみたいだぞ」

「まあ、そうだよね」

新婚夫婦からかしこまって言われて、真っ先に浮かぶのは妊娠だろう。電話の向こうの菊乃さんの様子を想像して、小さく笑いをこぼす。

菊乃さんと会うより前に、及川のマンションは予約を開始した。
安い買い物ではないが予想以上の反響で、人気の上層階はすぐさま問い合わせが殺到した。抽選販売を予告してあったが、相当な倍率になりそうだ。ほかの階も順調に契約が成立している。

中には、加藤のタイルに惹かれたと話す客もいたようだ。
この企画に参加させてもらえて本当によかったと、千秋さんや菊乃さんをはじめ関わったすべての人に感謝している。もちろん、岸本さんにも。最後はあんな別れ方になってしまったが、彼女が加藤の再建に貢献したのは間違いなく事実だから。

「すごい! さすが及川不動産だね。その名前だけでも安心材料になるって知ってたけど、これほど人気が高いなんて予想以上よ」

はしゃぐ私と違って千秋さんはいたって冷静で、「当然だ」とうなずく。

「そう思ってもらえる仕事をしてきているからな」

こんなふうに自信を持てるように、私も加藤製陶の一員として頑張りたい。

その後気になるだろうからと、千秋さんが岸本さんの話を聞かせてくれた。
彼としては、降格と外部との接触のない部署に異動させてもう一度出直してもらうつもりだったらしいが、地方の支社に異動して一からやり直したいという彼女の希望に、千秋さんがそれを了承した。
『新人の頃のようなやる気に満ちた顔をしていたから、大丈夫だろう』と聞いて、私も安堵している。

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