跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「仲良くしてやってね。もちろん、私ともよ」

「はい。私の方こそ、よろしくお願いします」

千秋さんの話をする菊乃さんの表情は、とても穏やかだ。これまでずっと、彼を気にかけてきたのだろう。
逆に、千秋さんもきっと菊乃さんを大事にしてきたのだろう。彼女を見るその目もまた、とても柔らかい。そんなふたりに、胸が温かくなる。

それからもうしばらく話をして、きりのよいところでお暇させてもらった。


菊乃さんだけでなく、もう何年も前から海外で暮らしているらしい彼のご両親も、この結婚を喜んでくれた。電話越しに感じたお義父さんの物腰の柔らかい雰囲気は、私の実父と似ている。

ご両親との顔合わせについては、千秋さん曰く『そのうち会いに行けばいい』だそうだ。そういう言い方をする人は、大抵実行しないだろう。ただ、決して不仲ではなく、むしろ言葉こそぶっきらぼうだが互いに家族として思い合っているのが伝わってくるから心配はいらなさそうだ。


私の家族も最初こそ不安そうにしていたが、後に挨拶に訪れた千秋さんの誠実そうな姿に感動して、ビジネスの話とは関係なく完全に賛成に転じた。

完璧に猫を被っている。千秋さんにそれを指摘しても、きっと場にふさわしい振舞をしているだけだとか言い返されるに違いない。賢明にも告げ口はしなかった。

両家の関係は問題ない。むしろ歓迎ムード一色で、この結婚をぐいぐいと後押してくる。それもあって、あっという間に話が進んだ。

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