桜が咲く頃に、私は
家を出て、アパートに帰っていると、翠が声を弾ませて話し掛ける。


「いやあ、あの顔見た? 毒親のくせに、一丁前にショック受けてたみたいだね。あのチャラ男はずっとあんたを見てて気持ち悪かったけどさ。でも、なんか伝わったよ。早春が言いたいことを全部伝えたんだってのがさ」


「まあ……一応あれでも私の母親だからね。でも、流石に私の部屋であんなことしてるなんてさ……」


「あー……それは早春でもショックを受けたか。私ももしも自分の部屋でって考えたら……吐きそうになるよ」


おえっと、吐くようなリアクションを取る翠。


だけど私は逆だった。


なんというか、気持ち悪かったしふざけるなとも思いはしたけど、完全には切れそうになかった母親との関係を、一気に切る機会だと思えたから。


「ところでさ……このタイミングでこんなことを聞くのは、KYかもしれないんだけど……早春はさ、天川と……あったの?」


確かに今その話をすると、さっきの光景が浮かんでしまう。


「ないよ。多分だけど、空は死ぬってわかってたからそういうことはしなかったんだと思う。もっともっと生きたくなっちゃうかもしれないでしょ?」


「そっか。ホント、あいつらに教えてやりたいよ、あんた達の愛をさ。似なくて良かったね、早春」


バシッと背中を叩いて、満面の笑みを私に向けた翠に私も微笑んだ。


もう、心残りは無くなったかな。


後は……大事な人達と最期の時まで精一杯生きるだけだ。
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