桜が咲く頃に、私は
こっちが恥ずかしくなるくらいに、真っ直ぐな言葉を伝えて来るんだよな広瀬は。


だから、私もしっかりと考えて、広瀬に私の言葉をぶつけないといけない。


「えっと……本当にそれでいいわけ? いじめも、私も、広瀬が一歩踏み出さないと何も変わらないよ? 彼氏がそんなんじゃ、心配だろ」


「ご、ごめん。でも僕は本当に、桜井さんと一緒にいるだけで幸せなんだ。いじめは嫌だけど……毎日のこの時間があるから、僕は生きていられる。充実しているんだよ」


何か……胸の辺りが苦しくなって、何かが込み上げるような感覚。


涙が溢れそうになるけど、グッと堪えて柵に手をかけた。


広瀬の言葉は、私に幸せを与えてくれる。


「159」。


その幸せは私の余命を削るけど、それでも良かった。


家族からも必要とされず、仲の良い友達と言えば翠くらいで、今まで私はこの世界に居場所を見付けられなかったから。


「え、あの……桜井さん! 危ないよ!」


制止するのも聞かずに柵を越えて、私は屋上の一段高くなっている縁の上に立ち、両手を広げて振り返った。


「早く助けないと、私、ここから落ちるかもよ? 死んじゃうかもよ?」


「そ、そんな無茶苦茶な! 僕の手を掴んで!」


広瀬が手を伸ばすけど、私はそれから逃げるように、縁の上を歩いた。
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